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【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子【世界のギフトマナー】国別 贈り物上手になるためのヒント by石橋眞知子

ギフト文化は、各国の歴史や習慣とともに育まれるもの。 それだけに、ギフトにまつわるマナーにもお国柄が色濃く反映されます。 プロトコール(国際交流のルール)に精通する筆者が、ギフトの習慣やタブーを国別に解説します。

【インドネシア編】ギフトを通して、みんなに幸せをおすそ分け!

インドネシアと一口に言っても、約13500の島々から形成され、そこに約300の民族が多様な文化を織りなしています。イスラム教徒が約88%を占め、次にキリスト教徒約9%、仏教やヒンドゥー教徒は1〜2%。信仰の自由が憲法で認められているので、各教徒がお互いを認め合い、穏やかに暮らしています。実際、ジャカルタに暮らすイスラム教徒の友人とバリ島に住むヒンドゥー教徒の知人は、宗教の隔てなく公私ともに楽しく付き合っています。宗教や人種の差別意識が根強い国々では、フェアな国情のインドネシアに憧れる人も多いと言います。「それがね、インドネシア国籍を取るのが難しいんだ。とはいえ、一旦国籍を取ったら差別をしない国だね」とは、マレーシア国籍の友人の弁ですが、現実はどうなのでしょう。さて、このように多様な人々で構成されたインドネシアのギフト事情、興味津々ですね。

【インドネシア編】折りに触れ、ハラルなスイーツを手土産に
著 : 石橋眞知子 / 編集:永岡綾 / イラスト:坂本朝香
※掲載情報は、著者の経験および独自のリサーチに基づくものです

Q. どんなときにギフトを贈る?

インドネシアの年中行事で特徴的なのは、1年に4回もある「お正月」。西暦の元旦、1月1日は、キリスト教徒だけでなく国家としても祝うお正月です。カウントダウンに人が集まり、花火や爆竹が町中を賑わせます。続いて、「イムレック」と呼ばれる中国の旧正月(旧暦のお正月)になると、チャイナタウンは大盛況。伝統舞踊や獅子舞が道を練り歩き、各家庭では正月料理が振る舞われ、赤い袋に入ったお年玉「紅包(ホンパオ)」が子どもたちに配られます。また、ヒンドゥー教のサカ暦の新年を祝う「ニュピ」も国家が指定した祝日 (春頃)。ヒンドゥー教徒の多いバリ島では、「悪霊が去るのを瞑想して待つ静寂の日」として、電気や火を一切使わずに家で静かに過ごします。最後に、イスラム教徒にとって大切な日が、イスラム(ヒジュラ)暦の元日(秋頃)。お祭り騒ぎをするわけではなく、学校やモスクで厳かに祈りを捧げます。

どの宗教をもリスペクトし、4回も「お正月」のあるインドネシア。とはいえ、ギフトをやりとりするのは旧正月のお年玉くらい。その代わりというわけではありませんが、結婚、出産、誕生日などの人生イベントには、ギフトが不可欠です。まず結婚祝いには、新婚生活に役立つ品物か現金が贈られます。懐事情に合わせてのご祝儀ですが、友人関係だと、1000〜8000円が相場だそう。小さな封筒に自分の名前を書いて渡します。

また、出産祝いが盛大に行われるのも、インドネシアのイスラム教徒の特徴です。生後7日目に「アキカ」と呼ばれるパーティが開かれ、男の子の場合は山羊を2頭、女の子は1頭ほどを調理して招待客に振る舞います。健やかな成長を祈るために儀式に沿うってお祈りをしながら、赤ちゃんの髪の毛を少し切るのだとか。この「アキカ」の参列者は、育児用品やお祝い金を持参します。身内からは、赤ちゃんの将来のことを考えて純金が渡されることが多いそうです。

誕生日のギフトはというと、私たちが思い描くものとはまったく違います。通常、誕生日を迎える人に家族や友人がプレゼントを渡して喜び合うものですよね。インドネシアは真逆。お誕生日を迎える人が周りに幸せをおすそ分けしなければなりません。誕生パーティを開いた際には、メンバー全員にケーキやピザなど分けやすい食材を配ったり、自分のネーム入りのハンカチやポーチを用意したり。それこそ企業のトップなど有名人ほど、大掛かりなギフトのばらまきになるそうです。「これをもらいました!」とジャカルタ在住の友人がSNSに載せていたのは、赤いリボンのついたクッキーの袋でした。同じオフィスで働くボスからのプレゼントだそうです。生を受けたことを周囲に感謝する気持ちが、こういう習慣に転じたのかもしれませんね。

さらに、昨今では、クリスマスやバレンタインデーもにぎやかなイベントとなってきました。しかしながらイスラム教徒の多いインドネシアでは、いずれも欧米式商戦の域を出ません。たとえばクリスマスにはツリーが飾られ、サンタの格好をしたデパートの店員を見かけますが、それほどの盛り上がりはないそうです。一般庶民にとってのクリスマスは「スペシャルセール」のイメージが強いのかもしれません。   

一方、インドネシア独自のギフト習慣が「スンバコ」です。毎年イスラム暦の9番目の月に行われる「ラマダン」(断食月)。日の出から日没まで何も口に入れない一ヶ月が過ぎると、一週間の休暇をとることになります。この断食明けを「レバラン」と呼び、インドネシア人が最も楽しみにしている時期。この一年でいちばん長い休暇には、ほとんどの人が帰省するとか。その時に渡されるのが「THR」と言うボーナス(月給一ヶ月分くらい)と「スンバコ」なのです。

「スンバコ」は、もともと米、食用油、砂糖、塩、肉や魚、卵、牛乳、とうもろこし、灯油の9種類の生活必需品を意味しています。富裕層や経営者が感謝の意を込めて、日頃からお世話になっている人たちに9品の詰め合わせを配るのです。今ではスンバコの中身も変化して、お菓子や麺類、また衣類なども入り、日本のお歳暮のようにバリエーション豊かになりました。

ラマダンが始まる前からデパートやスーパーには多彩な商品が所狭しと並べられます。スンバコ用のセットのみならず、レバランに帰省するときに必要な衣服や手土産用の品物もぎっしり。レバラン休暇を待つ人の心をくすぐります。またレバランが近づくと軒並みバーゲンセールもはじまり、商店街は人、人、人。いわゆる「レバラン商戦」が盛り上るのです。欧米にとってのクリスマス商戦と似ているかもしれません。

Q. ギフト文化の特徴は?

インドネシアでは、日頃の付き合いにちょっとした気遣いが必要です。例えば、旅行から戻ったら、友人宅やオフィスを訪問したら、遠方から出向いてくれたら、自分の頼みごとに心を砕いてくれたら......折に触れ、感謝の心を表す手土産が必要なのです。ほとんどのインドネシア人は、品物の価値や中身はあまり気にしません。品物を持参してきたことに意義があるのです。かつての日本も、ちょっとしたことですぐに品物の授受がありました。「つまらないものですが......」と手渡す日本人のマインドがそのままインドネシア人にも当てはまりそうです。

インドネシアの人は、ギフトをいただいてもその場で決して開けません。いただき物をすぐさま開けるのは、物欲が旺盛で、短気なイメージにつながるからだそう。贈り手の前で喜びを表現する欧米人とは大違い。また男性から女性にギフトを贈るのは、下心があると誤解されることも。そういえば以前、インドネシアを訪れたとき、インドネシアの友人から帰り際に渡されたお土産は、同席していた知人の男性を介して手渡されました。インドネシア式の気遣いだったのかもしれませんね。  

Q. ギフト選びのポイントは?

日常生活の中でのギフトは、やはり食品が圧倒的に多く、中でも甘いものが喜ばれます。ジャカルタ在住の日本人に聞いたところ、日本でお土産の定番とされるスイーツや、抹茶味のスイーツなども人気だそう。とはいえ、日本のお菓子がすべてOKだとは言えません。イスラム教徒は豚とアルコール飲料が厳禁です。豚の脂肪であるラードを使ったお菓子やクッキー、アルコールの入ったケーキやチョコレートはNGなので、お土産選びは慎重にしたいですね。

Q. 気をつけたいギフトのマナー&タブーは?

88%近い国民がイスラム教徒。厳格な信者もいれば曖昧な人もいてさまざまではありますが、贈り物には配慮したいものです。「ハラル(イスラム法によって合法な食事)」に合ったものしか食さない厳格なイスラム教徒にとっては、豚肉、豚のエキスやラードを使った食材、アルコール、アルコールの入った食品やアルコールを含む香水、豚皮製品、犬の置物や写真は、すべてタブー。ちなみにイスラム教では、犬は豚と同じ不浄な生き物なので要注意です。

また、ヒンドゥー教徒は牛肉を口にしないので、こちらも注意が必要です。とはいえ、バリヒンドゥー(バリ島に暮らすヒンドゥー教徒)の場合は、牛肉も食している人もいるそうです。  

渡すときに気をつけたいのは、左手でギフトを差し出さないこと。イスラム教徒にとってもヒンドゥー教徒にとっても、左手は不浄の手。ギフトだけでなく、お釣りや荷物の受け渡しも、すべて右手で行いましょう。

Q. ラッピングはどうしたらいい?

日本のようにデパートやショップでそのまま包装はしてくれません。包装紙やリボンを買って別途ラッピング係のところで包装をすることになります。どの国でも見かける筒状の包み方が一般的なのですが、ほかの国では見たことがないくらいテープを駆使します。まずペーパーを商品に留めるところから最後のフィニッシュまで、テープが大活躍。どうやらインドネシア人にとって決して得意な分野ではないようで、それだけ必死だということでしょう。とにかく時間はかかるし、お世辞にも上手だとは言えません。それでもラッピング係が設けられているのは、やっぱり相手を喜ばせたい気持ちがあるからなのでしょうね。

石橋眞知子

石橋眞知子Machiko Ishibashi

学習院大学卒業。在学中よりラジオパーソナリティやテレビレポーターとして活躍。その後、アメリカ・ノースウエスタン大学で日本語教師をし、イギリス・オックスフォード大学で美術史や演劇を学ぶ。以来、異文化コミュニケーションやマナーのレクチャー、企業のコンサルテーションなど幅広く活動。英会話に関する著書多数。2006年には「プロトコールの基本」(日本ホテル教育センター)の監修プロデュースを手がけた。2015年に日本クロスカルチュラルコミュニケーション協会を設立し、現在会長を務める。